『お元気ですか?
2年前、彩の写真展でお会いした月岡紫です。
覚えているでしょうか?
あの節は色々とありがとうございました。
今頃連絡を取ろうとしたのは、取り立てて用があった訳では無く…
あの時写して頂いた写真を眺めていると我妻さんを懐かしく思い出し、ふと思い立ってメールした次第です。
ただそれだけのくだらないメールですみません。
読み捨てて頂いても構いません。』
紫らしい簡素で真面目なメール。
久しぶりに目にする彼女の血の通った文章に、頬を緩めるのではなく…眉をひそめた。
『あの時写して頂いた写真を眺めて…』
と言う一文に苦しさが込み上げる。
それは俺と紫が写っている写真だ。
写真展を見に行った日、紫は初デートだと張り切っていた。
コバルトブルーのワンピースに身を包み、髪型やメイクを瑞希に手伝って貰い、
いつもより着飾った紫は、愛らしく美しかった。
そんな紫と寄り添い歩いていた時の写真を…
彼女は富良野に帰ってからも一人眺めていた。
富良野に戻り自分の居場所で忙しい日々を送りながらも、
彼女は俺を想い続けていた…と言うことなのか…?
その推測に、心臓が握り潰されそうに苦しくなる。
富良野の温かい家族や大樹の存在が、彼女を癒してくれると思っていた。
ファーム月岡で働く忙しい日々が、俺への想いを諦め忘れさせてくれると思っていた。
忘れてくれないと困るんだ。
忘れてくれないと……
紫まで苦しむ事になるだろ……
まさか紫は、今でも俺を想い苦しんでいるのか…?
そう思う焦りの中、
その後に来た全てのメールをチェックすると、俺の憶測は杞憂(キユウ)だったと分かり、ホッと息を吐き出した。
その後の彼女からのメールには、俺を思わせる言葉は一文字も綴られていなかった。
簡潔丁寧な彼女らしい文章には、写真の技術的なアドバイスを求める言葉が殆どで、
その他と言えば、季節の挨拶文や、我妻さんが送った写真に対するお礼と感想くらいだ。


