「アーニャ!誰かさんて誰の事?僕だって頼りになる男だろ?
何でも言って、君の頼みなら喜んでお役に立ちます!」
「それならミチロウ、この3冊の本、1ヶ月で日本語に訳してくれる?」
「え…1ヶ月!?
そんな…君といちゃついてる時間が無くなる…
でも頼りがいのある所を見せたい!
あ〜どうしたらいいんだ〜」
我妻さんが大袈裟に床にへたりこみ迷っている様を、アナスタシアさんは腕組みしながら、楽し気に見下ろしていた。
もしかして…彼女にはサド気があるのだろうか……
彼が気の毒になり声を掛ける。
「我妻さん、これは俺が先に貰った仕事なので、俺にやらせて下さい。
この本を読んでみたいし、今は忙しさの中に身を置いていたいので」
「そうかぁ〜リュウがそう言うなら…仕方ないよなワハハッ!」
急に元気になりスクッと立ち上がり、アナスタシアさんの腰に手を回す我妻さん。
その手は敢え無く彼女に叩き落とされる。
「全くミチロウは…
あなたも真面目に仕事してよね」
「するする!するよ〜
でもさ、こんな分厚い本の翻訳じゃなく、もっと僕向きの仕事プリーズ」
「ハァ…あなた向きねぇ…
それなら…何とかしてあげて……」
『何とかしてあげて…』
その後の彼女の言葉は小さ過ぎて、隣にいる我妻さんの耳までしか届かない。
けど分かっている。
『何とかしてあげて…リュウを……』
彼女はそう言ったに違いない。
悲しげに俺を見る彼女の瞳は揺れていた。
アナスタシアさんの立場は『俺』。
我妻さんの立場は『紫』。
彼女は自分の事の様に、俺の現状を憂いてくれる。
我妻さんはアナスタシアさんの体を引き寄せ、
彼女は彼の肩に頬を当て、もたれ掛かる。
俺に向けられる二人の居た堪(タマ)れない視線から、逃れる様に俯いた。
彼らの様に強く生きられたら、どんなにいいだろう。
しかし、どうにもならないこの心の弱さ。
怖いんだ…
紫の笑顔を奪うのが……
臆病な俺は……紫の前に立つ勇気は持てない。


