時刻は午後三時、
ほんの数時間前に顔を見せた太陽は、もう早沈む準備を見せ始めている。
夕方と言っても差し支えない日照高度。
しかし西日は空を隈なく覆う灰色の雲に遮られ、橙色には見えず、
室内に届くその光は、昇り切った後の朝日の様に薄ら白い。
曇り空からチラチラと舞い降りる粉雪。
白とグレーの冬の世界……
「リュウ、もしかして食べ足りなかったの?」
俺がまだ食卓テーブルから動かずにいる事をそう捉えたアナスタシアさんが、笑いながら近付いてきた。
そう言う意味でここにいた訳ではないのだが、
作り手としてはもっと食べたかったと言われる方が嬉しいだろうと思い、笑って頷いた。
「スコーンもジャムもとても美味しかった。
あれなら10個でも20個でも食べられそうです」
「フフッありがとう。
10個もないけど、2つ残っているから食べる?」
彼女は新しい皿にスコーンを乗せ、ジャムと共にテーブルの上に乗せてくれた。
自分で二杯目の熱い紅茶をキッチンで用意し、再び食卓の席に座ると、
彼女は書斎から持ってきた分厚いハードカバーのロシア語の書籍三冊と、折り畳んだ新聞を食卓テーブルの端に積み上げた。
「リュウ、今の仕事は後どれくらいで終わりそう?
それが終わったら、この本と新聞の短いコラムの日本語訳をお願い出来るかしら?」
「今の仕事は多分、3日あれば終わると思いますが……随分大量ですね。
新聞コラムはすぐに出来るけど、この3冊の本の期限は?」
「来月の25日。
約1ヶ月あるわ。出来る?」
「出来ます」
「あら頼もしいわね、誰かさんと大違い」
アナスタシアさんがそう言って明るい声で笑うと、
リビング奥の書斎から、我妻さんが勢い良く駆け付けた。


