アナスタシアさんの体の事情を知ったのは、我妻さんに拾われて少し経った頃。
夕食後の家族団欒(ダンラン)の時間に、二人揃って俺に教えてくれたんだ。
いつでも明るく笑う家族にも、拭い切れない悲しい記憶があるのだと知り、
酷く驚き、色々と考えさせられた…
彼女は7年前に子宮体癌を患い、子宮と卵巣を摘出する手術を受けていた。
その後再発はなく、無事に術後5年と言う、一つの目安の年数を通過する事が出来たが、
5年経っても7年経っても、彼女と家族の心の痛みは無くなるものではない。
子宮癌の発症に気付けた契機は…妊娠だった。
その時彼女は、我妻さんの子供を身篭っていた。
初めての懐妊と言う喜びと同時に、医師から癌を宣告されたんだ…
その時の彼女と我妻さんの心情は、筆舌に尽くし難い。
これは俺が推測する自体憚(ハバカ)られる苦痛。
味わった本人達にしか分からない苦悩。
そのまま妊娠を継続すれば、彼女は新しい生命と引き換えに命を失う。
いや…新しい生命の保証も出来ない。
医師よりそう説明され、結果として夫婦は、子宮卵巣摘出手術を受ける道を選び…
胎児の命を諦めた。
その選択に正誤はない。
正しい答えを知る者は誰もいない。
ただ、その後も彼女は苦しみ続け、十字架に向け謝罪の言葉を呟き涙を流す。
我妻さんも彼女の両親も、そんな彼女に寄り添いながら、共に苦しんでいるのが現状だ。
手術後アナスタシアさんは、我妻さんに離縁を願い出たそうだ。
彼の子供の命を守れなかった事、それからこの先二度と妊娠できない自分を責め、
我妻さんに他の誰かと子供を作って欲しいと願ったそうだ。
もちろん我妻さんは頷きはしない。
何故なら彼女の傍に寄り添う事が彼の幸せであり、
彼女の苦しみを共に背負い分かち合う事が、彼の望みだから。
そうして二人は心の傷を日常の笑い声と笑顔で覆い、支え合って生きている。


