我妻さんを悪く言う事は出来ない。
彼の人柄が好きだし、尊敬している。
このヴェデルニコフ家に婿養子に入った我妻さんは、明朗活発、加えていつも陽気な人だ。
気さくに気軽に接してくれる彼の言葉と態度の端々には、
いつだって思慮深さと優しさと、
それから、どんな相手に対しても決して軽んじたりせず、尊重する姿勢が滲み出ている。
彼は素晴らしい人格者だ。
紫との未来を失っても心を閉じずにいられるのは、
何気ない彼との日常会話が、喪失感に押し潰されそうな心を救ってくれるからなのかも知れない。
その時、開いているドアから、食材の詰まった布袋を片手に、大袈裟に驚きの表情を作る我妻さんが入って来た。
「アーニャ!今、何て言ってたの?
僕よりリュウの方が……素敵って言った?
ああ〜いつかこんな日が来るんじゃないかと心配してたけど、やっぱり若い男の方が…」
「はぁ…ミチロウはまた馬鹿な事言って。
翻訳作業に関しては、リュウはミチロウより有能だと言ったのよ」
「あっなーんだ!それならいいんだ。問題ナッシング!ワハハッ!
アーニャ、今日も君は美しい!愛してるよ!
僕程君を愛してる男はいないからね、だからいくらリュウがイケメン君だからと言って…」
「はいはい、私も愛してるから大丈夫よ。
ミチロウ買ってきた食材キッチンに運んで。ランチの用意するわ」
我妻さんを従え、金色の長い髪をなびかせて、書斎から颯爽と出て行くアナスタシアさん。
いつもと変わらぬこの夫婦のやり取りに、笑いがこぼれる。
我妻さんは一体、一日に何度妻に「愛してる」と言っているのだろう。
今日は昼の時点で5回は聞いているな。
我妻さんの方が愛が重そうにも見えるが…
アナスタシアさんも彼と居られて、幸せに違いない。
幸せで何の憂いもない様に見える夫婦だが、この二人にも思い悩む時期はあり、
そして今も、複雑な想いを抱え支え合い生きている。


