紅茶にジャムの組み合わせや、T字の格子窓もロシア風だよね。
窓から差し込む淡い太陽光が作り出した、光と影の芸術的で温かいロシアの食卓テーブル。
素敵だな……
「ほうっ…」と感嘆の溜息を漏らした時、写真の中にふと気になるものを見つけた。
それは小さな光りの点……
白いテーブルクロスの右端に映る、うっすらとして淡過ぎる朧げな光り。
目を凝らせば凝らす程、分からなくなってしまいそうな…
そんな小さな…
紫色の光り。
一瞬固まり、それからハッとして、慌てて写真をパソコンの画面いっぱいに引き伸ばす。
引き伸ばした事で、今度はハッキリと豆粒大の紫色の光りを確認した。
その光は円形の薄いグレーの影に繋がれて…指輪の形を成している様に見える。
更にはその指輪を宙にぶら下げている、細いチェーンの影もうっすらと見えて……
これは私の願望が作り上げた幻ではないかと、何度も目を擦り瞬きをする。
「気のせいかも…」
わざと否定的な言葉を口にし、何もない服の胸元を強く握り締め、落ち着こうとする。
しかし、何度見ても幻なんかじゃなく…画面上には確かに、紫水晶の指輪の影があった。
画面の右端ギリギリには、前髪の影の様な線も数本写っている。
右下には紺色のセーターの袖も、注視しないと気づかない程僅かに写り込んでいる。
この写真の枠に入らなかった右側の部分にはきっと…
紺色のセーターを着て、テーブルに向かう流星がいる……
少し俯き加減の体勢でいるから、首に下げた紫水晶の指輪が宙に揺れ…
テーブルクロスにその影を映し出したんだ……
さっきまでロシアの風情と光と影の芸術を楽しんで見ていたテーブル上の小物達。
それらが今は、違った意味を持ち始めた。
新聞や本は流星の読んでいた物かも知れないと思い…
このカップの紅茶もスコーンもジャムも…
彼の為に用意された物かも知れないと考える。
この食卓テーブルは、今の流星の居場所…
流星はモスクワの…
我妻さんの家に居た……


