ラベンダーと星空の約束

 


流星は視線を斜め上にずらし、また星空を眺めながら静かに話しを続けた。



その口ぶりは淡々として、何でもない事みたいにつらつら話しやがるが、

その内容は…暗く重たい…未来の話しだった。





「弓道勝負に賭ける物は、今の紫じゃない。

彼女の十数年後の未来だよ。

俺の命には期限がある。
彼女の未来に俺は居ない。

夏休み前の検診で、この心臓に僅かな綻びが見付かった。

幸いな事に今すぐどうこうなる問題じゃない。

問題となるのは、恐らく十数年後。

医者は俺にこう言った。
『いずれ再移植が必要になる事を覚悟しておいて』ってさ」




「………」




酷くあっさり説明された内容に、言葉を失った。



十数年…そんなに遠い話しじゃねーぞ……

その時こいつは…居ない?
死ぬ…ってことか?





「大樹、そんな顔するなよ。

後10年は生きられると確約された様な物で、俺はホッとしてるんだ。

紫と10年も…もしかすると、それプラス数年は一緒に生きられる」




「お前…それって…再移植はしねぇってことか?」




「そうだね。

俺はもう十分に幸せだからさ、

十数年後に必要とする新しい心臓は、俺じゃない他の誰かに移植して欲しいと思っているんだ。

病に苦しみ、生きる事を諦めかけた十数年後の誰かにも、俺みたいな幸せを掴んで欲しいと願っている」




「見ず知らずの奴の為に……そんな気持ち…俺には分からねーよ……」




「ハハッ 確かに少し綺麗事すぎたかな。

けど再移植を受けないと決めた理由は、他にもあるんだ。

この心臓はね、俺にとっては唯一無二の存在なんだ。

これがダメになったから次…とはとても考えられない。

本当はこの心臓は俺じゃなく、聖人みたいな素晴らしい人に移植が決まっていたんだ。

けど色々あって、今この胸の中で動いてくれている。

この心臓が俺の物になってくれなければ、俺とあの人の状況は逆だったのかも知れない。

この心臓は特別なんだ…

俺にとって唯一無二の心臓…大樹、この意味分かる?」




「バカにすんじゃねー。
そんくらい分かるよ…何となく……」