数分間、無言のまま、睨んでいた大樹。
一度瞼を閉じ一呼吸置いてから、ゆっくりと目を開けた。
何かを強く決意した光が、瞳の中を走り過ぎた。
珍しく真面目な顔を私に向ける。
向かい合う私にも、彼の静かな緊張が幾許か伝わって来た。
カーテンを揺らし続けていたエアコンは、設定温度に達した為、唸るのを止め声を潜めている。
静けさが増した室内に、大樹の低い声が響いた。
「紫、良く聞け。
流星はな…お前の下に戻る気ねーぞ。
二度とお前に会わない覚悟で消えたんだ。待っていても帰らない」
長いタメと真面目な表情の大樹に、何を言い出す気かと少しだけ緊張していたのに、
有り得ない作り話しを始めたから、吹き出し笑ってしまった。
「プッ…アハハッ!
今日の大樹はどうしちゃったのよ!
夢でも見たの?まだ寝ぼけてるの?アハハハッ!
心配しなくても大丈夫だよ。
流星はちゃんと帰ってくるから。
今ね、ちょっと外出していて…外出先はえーと…
あれ?どこ行ってるんだっけ?
忘れちゃった…うーん……あっ!瑞希君に聞けば分かるよ」
流星の出掛け先を把握しているつもりでいたのに、なぜか思い出せない。
瑞希君に聞こうと思い、ベットから下りようとした。
しかし下りる前に大樹に背中を強く抱きしめられ…
右足だけをベットから下ろした姿勢で、動けなくなった。
「びっくりした…
大樹どうしたの…?」
「オカマに聞いたって、答えなんか返ってこねーよ…
流星はな…逃げやがったんだよ。
お前を俺に押し付けてな」
「…… 逃げる…押し付ける……何それ意味分かんない、フフッ」
「チッ……これを見ろ。
流星から今朝、いや夜中に来たメールだ」
大樹は私を片腕で抱え込んだまま、もう一方の手でポケットからスマホを取り出した。
「読め」と言って、それを顔の前に突き付ける。


