朝からずっと料理を作り続けていた紫。
作るのを止めた事で、次に何をしたらいいかと、困っていた。
それでもその顔は、相変わらず嘘くせー笑いを張り付けたままだ。
おい、困ってんならちゃんと困った顔しろって……
少し考えてから紫は、閃いたとばかりにポンッと手を打った。
「大樹、食後に果物でもどう?
林檎切ろうか?みかんの方がいい?」
やる事見つけたのはいいけどな…いい加減、食い物から頭を離せってーの。
「どっちも要らねー。
どんだけ食わせる気だよ。
“稲田の食え食えババア”かっつーの」
「アハハッ!稲田のおばあちゃん懐かしいね!
来る人来る人に、いっぱい食べさせ様とする人だったよね」
「もう食えねーって言ってんのに『食え食え』つって、
干し芋だの漬物だの、ようかんだの持って来んだよな。
食わせるならせめて子供ウケする物にしろっつったら…」
「おにぎり握ってくれたんだよね!
アハハッ!私に3個、青空に2個、大樹に…」
「5個だ。
あん時俺らまだ9歳だぞ?
そんなに食えるわけねーだろーが」
「そんな事もあったよね…
フフッ 私稲田のおばあちゃん大好きだったよ……
いつも優しくてニコニコしてて……」
「そうか?俺は笑ってるイメージより、怒ってる記憶の方が強いけど」
「それはあんたが叱られる事ばっかりやってたからでしょ?
稲田のおばあちゃんは、ちゃんと大樹の事も可愛がっていたよ。
亡くなってもう8年か…
95まで長生きしたと思うけど…
人が死ぬのって、淋しくて辛いよね……」
稲田のばあさんっつーのは、近所に住んでた米農家のババア。
ばあさんが死んでから、俺らはあの家にあまり行かなくなったけど、
稲田のおじさんもおばさんも、農家を継ぐため札幌から帰ってきた兄ちゃんも、
俺の顔を見れば
「婆ちゃんがいなくても遊びに来いや」
って言ってくれる。
稲田のおばさんと俺と紫のお袋達は、よくたむろってる茶飲み仲間だし、
ばあさんが死んだ後も、稲田家との繋がりは切れねぇ。


