電話口でオカマが続けた。
『僕が思うに、紫ちゃんは泣かないから、こんな風におかしくなったんじゃないかな……
泣いた方がいいのに…
わんわん泣いて、気持ちをさらけ出した方がいいのに……
紫ちゃんは泣けないんだよ。
今回の事は、大ちゃんが入院した時に、自分が“怖い”って泣いたせいだと思ってるから……』
「良く分かんねぇ…
何で紫が泣いたら、流星が居なくなるんだ?」
『大樹あの本読んだ?大ちゃんが書いた本。
あの本の主人公とヒロインの結末に、今の自分達を重ねてるんだ』
流星の書いた本…あぁアレか。
紫が小学生の時に写した写真が、表紙になってるやつ。
読んでねぇから、オカマの言うことはピンとこないけど……
紫がショックを受けてんのに、泣けねぇ状態にあるのは良く分かった。
「泣かせればいいって事か?」
『それで彼女が立ち直るかどうかは自信ないけど、正気に戻ってくれるんじゃないかと期待してる。
泣いて泣いて、どん底まで落ちてからじゃないと、正しい方向に顔を上げられないと思うんだ。
そう思わない?』
「……… 思う。
分かった、出来るだけ早くそっちに行くから、それまで紫を見張ってくれ。頼むぞ」
オカマの言いたい事は分かった。
俺も似たような経験をしたから。
俺がバカな事やっちまった時、紫を傷付けて…アイツが死ぬんじゃないかって…恐くて堪らなかった。
紫の意識が戻らない間の俺は、頭がおかしくなってたと思う。
俺のせいだから泣く事も出来ず、追い詰められても現実に向き合えずにおかしくなってた。
意識が戻った紫の前で泣き崩れ…
あん時の俺は、やっと正気に戻れたんだ……
だから紫も今、思いっ切り泣く事が必要なんだと理解した。
オカマとの通話を切った後、メールが一通届いていた事に気が付いた。
真夜中に届いていた、知らないアドレスからのメール。
怪しいと思いながらそれを開くと…
たった今、オカマに、
「どこ行ったんだ?」と聞いていた、流星のクソ野郎からのメールだった。


