それに…体を動かしていたかった。
何かをやっていた方が、今は楽だった。
羽田に着いた時、今夜は3人で石狩鍋をつつこうかと思っていた。
冷蔵庫を開けると、椎茸はないけど鍋を出来る材料は揃っている。
だけど…流石にこんな気分で2人鍋をする気にはならない。
富良野を出る時に母が持たせてくれた鮭児の冷凍切り身は、保冷バックの中ですっかり解凍されていた。
再冷凍はしない方がいいよね…
明日焼いて食べようかな……
切り身に薄く塩を振って冷蔵庫にしまい、
引き出しの中で見つけた乾麺のうどんを茹で始めた。
冷蔵庫に入っていた豚バラ肉と長ネギを刻み、それらを麺つゆで煮て温かいつけダレを作る。
つけ麺風の温かいうどんをキッチン前のカウンターテーブルに置き、新しい自室にいる瑞希君を呼びに行った。
私が夕食の支度をしていた事に気づいていなかった瑞希君、
「夕食できたよ」の言葉に驚いていた。
「え……作れたの?」
「作れた?今までかなりの回数、瑞希君に作ってあげてたつもりだけど?」
「そういう意味じゃなくて……」
「あぁ、そっちの意味で言ったんだ…
大丈夫だよ…私は。
夕食を作る気力も体力もあるから。
ほら温かい内に食べよ。瑞希君お昼も食べてないんでしょ?」
「うん…ありがと…」
リビングのカウンターテーブルに並んで座り、うどんを啜る。
柏寮とは違い、高性能のエアコンが全部屋完備されているこのマンションは暖かい。
頼りない豆電球なんて一つもなく、スポットライトや室内灯が、部屋の隅々まで照らしくれる。
暖かく明るい室内には、ほわほわと麺つゆの湯気が漂い…
何もかも満たされている部屋なのに、私達の箸は重く、食が進まない。
隙間風が吹いて寒くても、柏寮の方が温かかったと懐かしんでしまう。
3人で笑い合いながらテーブルを囲んでいたのは…
そんなに前の事じゃないのに……
「紫ちゃん…美味しいけど…これ全部は食べられないよ」
「あっ量が多いよね。
瑞希君と2人分って…分かってたつもりだけど、つい茹ですぎちゃった。
ごめん…残していいから」