『父さんが…見たがっていたから…暫く貸してくれない?』
一週間前にそう言われ、彼に紫水晶の指輪を渡した。
その理由も嘘なんだね……
本当は、私の手元に残して行きたく無かったから……
流星は一週間前には既に、私の前から去る事を決めていたんだ。
思い返せばあの日の流星は、どこか不自然な所があった。
妙に明るい態度を取ったかと思えば、淋し気な顔を見せたり…
キスだっていつもより少し強引で……
エレベーターに乗るのも下りるのも、何と無く嫌そうだった……
あの時の流星が、どんな思いで笑い掛けていたのかなんて…
間抜けな私は、想像すらしなかった。
何も気付かず笑顔で指輪を渡し、
笑って手を振り、別れたなんて…
愚鈍な私は…
一体何度、大切なポイントを見過ごしたら気が済むのだろう……
後悔が雪崩の様に押し寄せ、胸を締め付ける。
服の胸元を強く握りしめてみるけれど、手の中にいつもの確かな手応えは無く、痛みは引きそうになかった。
結局、屑籠の中にある物が教えてくれたのは、
自分の愚かさと、流星が私を気遣いながらも別れを選んだということだけ。
流星の言う『事情』とやらは見つからなかった。
なぜ居なくなったの…?
そして…どこへ行ったの…?
その問いを、どこに打つければいいのか分からない。
ポケットからスマホを取り出し、ディスプレイに流星の名前を表示する。
きっと繋がらない。
分かってるよそんなの……
無駄と分かっていても、他に何をしていいのか分からず、電話を掛けようとしていた。
それまで廊下の片隅で黙って見ていた瑞希君が、部屋に入ってきて、隣にしゃがみ込んだ。
「無駄だよ。大ちゃんのスマホは既に解約済みなんだ。
昨日の夜電話した時は通じたのに…今はもう…繋がらない……」
違うよ瑞希君…
“昨夜まで”じゃなく
“今朝まで”は通じていたんだよ。


