私の持ち物であるこの本が捨てられている理由は…
恐らく…
私の手元に、流星を思い出させる品を残したくなかったから……
瑞希君宛てのあの手紙にはこう書かれていた。
『…彼女の中の俺の存在も、柏寮と共に消えてしまえばいいのに……』
流星は…私に忘れられる事を望んでいる。
何年経ったとしても…
そんなの不可能に決まってるのに……
屑籠の中にはこの本だけでなく、紙屑も入っていた。
ゴミと化し、くしゃくしゃに丸められた二つの紙を拾い上げる。
その一つを開いてみると…
私宛てに書こうとしていた手紙だということが分かった。
床の上で慎重に皺を伸ばし、二枚の白い便箋を広げた。
二枚とも書かれている文字数は僅か。
一枚目には…『紫へ』と書かかれた後に、
『君の前から去る事をどうか許し…』
そこまで綴られ、文字が途切れていた。
書きかけて止めた理由は
『許して』という言葉を必要ないと思ったからだろうか……
許さなくていい…
許さず嫌いになってくれるなら、その方がいい。
流星ならそんな風に考えた気がする。
二枚目を見る。
同じく『紫へ』と書かれた後に、
『君の前から去る理由は、君に非がある訳ではないと、それだけは分かって欲しい』
そこまで綴り、文字が終わっていた。
これは…私が自分の中に原因を追及しない様に、思い遣って書いたのだろう。
でも一枚目同様、書きかけで捨ててしまったのはどうしてなのか……
何を書いても、私の心を晴らす事が出来ないと分かっていたから?
それとも…手紙を残すこと自体が、私に取って良くないと、思い直したからだろうか…
流星の書いたこの本と…紫水晶の指輪を、私の手元に残さない様にしたのと同じで……
着ている厚手のコートのボタンを外し、前合わせを開いた。
服の上から胸元に触れてみる。
当然そこに確かな感触は無く、自分の貧相な胸に触れるだけだった。
流星を想い心の中が吹き荒れる時、
紫水晶の指輪は、いつも嵐から私の心を守ってくれていた。
精神安定剤の様な役目を担うその指輪に…触れる事はもう出来ない。


