流星の温もりを失った残酷な部屋が、私の胸を締め付け、突き刺し、壊そうとする。
それでも胸の痛みに耐え、現実から目を背けずに、部屋の隅々に目を凝らす。
何かヒントが残されていないかと思って……
空っぽの書棚に机。
マットレスが剥き出しの簡素なベットと、
綺麗に磨かれても古さは隠し切れない、くたびれた洗面台。
他に残されている物は……
ふと気付いたのは、時刻が夕暮れの時間に入っていた事。
廊下の窓から入り込んだ西日が、開け放した入口から部屋の中を照らしている。
そのオレンジ色の光は、部屋の床から壁にかけて、
ドアの形を引き延ばした様な、細長く四角い光の空間を、斜めに切り出していた。
温かい色彩の光が降り注ぐ柏寮の夕暮れは、ノスタルジックな香りの漂う私の好きな時間。
その光と香りに包まれた明るい長方形の空間には、籐編みの屑籠(クズカゴ)が……
日焼けした壁と古びた机の間に、忘れられたかの様にポツンと残されている屑籠。
それだけが、この部屋の中に残された、流星の唯一の私物だった。
中は空っぽかも知れない…
意味のないゴミしか入っていないかも知れない……
けれど、その中に疑問の答えが捨てられていると確信めいた予感がして、
足に力を込め立ち上がった。
夕陽に彩られるその屑籠に、そろりそろり近付いて行く。
覗き込むと中には、紙屑と一緒に一冊の本が捨てられていた。
それは…
ラベンダー畑に降り注ぐ星空の写真が、表紙に印刷されたハードカバーの本。
流星の書いた…
『ラベンダーと星空の約束』
跪いて拾い上げると、本の間から栞(シオリ)が一枚ひらりと落ちた。
よく書店のレジ横に“御自由にどうぞ”と書かれて置いてある様な、
出版社の宣伝の為に作られたどこにでもある紙の栞。
それは私の栞であるとすぐに気付く。
ひっくり返して裏面を見ると、富良野の小さな個人書店の店名印が押してあったから。
つまり…この『ラベンダーと星空の約束』は流星の持ち物ではなく、
私が富良野で購入し、柏寮に持って来ていた…
私の本……


