まるで初めから無かったとでも言うように、流星の生活の痕跡が一つ残らず消えている……
「…う…そ……」
後ずさり踵(キビス)を返した。
今度は隣の109号室…
私の部屋のドアを力任せに開け放った。
大きな音を立て壁にぶつかり跳ね返ったドアが、麻痺腕を打ち付ける。
痛みを感じていた。
ドアがぶつかった腕じゃなくて……心に……
私の部屋も…流星の部屋と同様、空っぽだった。
私物の無くなった部屋は、色も温度も失って随分と冷酷に見える。
一週間前は、確かにここに私の居場所があったのに……
他人行儀で冷たい表情を見せているこの部屋が、自分の部屋だったと感じられるのは、
唯一の暖房器具として使っていた古い火燵(コタツ)が、
脚を外され、壁に立て掛けられていたから。
それが無ければ…
長年使われていない空き部屋と変わらない……
自室を出て、トイレとシャワー室と洗濯室を見て回り、
そこも綺麗に片付けられ、掃除もしてあるのを目の当たりにした。
痛む心を引き擦り流星の部屋まで戻る。
部屋の中央でヘナヘナと崩れ落ちる様に膝を付いた。
あちこち見て分かった事は…
一縷(イチル)の望みも虚しく、あの手紙に書かれている内容は、どうやら真実であると言う事。
私と瑞希君が一週間帰省している間に、
流星は1人で3人分の荷物を片付け、柏寮に別れを告げた。
そして…
確たる決意を持ち、私の前から姿を消したんだ……
『身勝手な事情により…』
手紙に書かれていた一文が、流星の声となり耳に聴こえた。
『事情』って何…?
私…何も聞いてないよ…?
どうして隠し事をして、居なくならないといけないの?
おかしいよ…こんなの…
納得出来ないよ……
柏寮を追い出されても、3人一緒に暮らせる道を作ってくれたのは流星なのに……
私の卒業を待って一緒に富良野に行くって…
進路調査表に書いていたのに……


