ラベンダーと星空の約束

 


瑞希君は努めて冷静に諭(サト)すけど、焦る心は止められない。




流星…嘘だよね……

あんな手紙…

事実な訳ないよ!!




片付けられた玄関を目にしても、私の心はまだ否定したがっている。



儚い希望に縋り、玄関から一直線に見渡せる、廊下の奥に目を向けた。



早く流星の部屋を見て安心したかった。



あの手紙を否定する景色が、この先に広がっていると信じたかった。



支えてくれる瑞希君の手を振りほどき、長い廊下の突き当たりまで急いだ。



麻痺を負ってから走れない事を“辛い”と感じたのは初めてだった。



急いた気持ちに付いて来れない足取りがもどかしく、

イライラしながら廊下を進み、やっと突き当たりまで辿り着いた。



角部屋の110号室…流星の部屋の前。



鼓動が耳障りに速度を上げて行く。




信じたくなかった…

あの手紙の文面を……




信じたかった…

このドアを開けたら、ホッとできる筈だと……




いつもみたいにエアコンの温風が心地好く流れていて…

私が部屋に入るとノートパソコンから顔を上げ、

「お帰り」って笑ってくれる筈なんだ……




ゴクリと生唾を飲み込み、ドアノブに手を掛ける。



部屋の鍵は掛けられいない。

ドアノブは手の中でスムーズに回転した。



そして、ゆっくりと開けられたドアは…

私に衝撃的な現実を突き付ける。




居ない……


流星が居ない……


彼の私物も、一つ残らず消えている……




部屋の中にある物は、柏寮の備品である簡素な学習机と、

布団もシーツも掛けられていない、マットレスが剥き出しになったベット。

それから小さな洗面台と、空っぽの木製の書棚だけ……




無い……

書棚に入り切らない程沢山あった本達が見当たらない…


机の上のペン立ても時計も勉強道具もない……


濃紺のカーテンも…飲み物ばかりぎっしり詰まっていた冷蔵庫も……


一緒に使っていた、ふわふわの掛け布団も…3人で囲んだローテーブルも……



何も無い。