瑞希君は片手に2人分の荷物を持ち、もう一方の手で私の手首を掴むと、足早に歩き出した。
新しいコートと新色メイク。
美容室に行き立ての艶々のハニーブラウンの髪が、半歩前で揺れている。
いつもの瑞希君なら私が何か言う前に
「見て見て〜僕に似合うでしょ?」
と自分からアピールしてくるのに……
それなのに、浮かれた様子の微塵も無い彼の表情は、
妙に深刻味を帯びて強張り、
言葉の端々には苛立ちが滲んでいる。
怒っているとも取れるその態度に戸惑いながらも、
手を引かれるまま、早い歩調に付いて行こうと必死に足を動かしていた。
分からない……
瑞希君は何に対して苛立っているのだろう。
不可思議な態度に心当たりがなく、戸惑うばかりだ。
タクシーの中で何かを話すと言うので、今は黙って付いて行くしかない。
歩いて、エスカレーターを下りてまた歩いて、
タクシー乗り場に近い出口から一歩外に出ると、
1月中旬の冷たいつむじ風が、瑞希君の白いコートとミニスカートの裾を捲り上げた。
私の手を離し、寒そうにコートとスカートの裾を押さえる彼。
私は寒いと感じなかった。
東京を発つ前は関東の冬の寒さを感じていたが、
富良野から戻り立ての今、余りの気温差に暖かいとさえ感じる。
瑞希君に押し込まれる様にタクシーの列の、先頭の一台に乗り込んだ。
運転手に柏寮の住所を告げた後は、発車しても瑞希君は言葉を口にしない。
タクシーの中で話すと言ったのに、手元を見つめ難しい顔して何かを考え込むだけだった。
声を掛け難いその様子に、諦めて車窓の流れ行く景色を眺め、彼が口を開くのをじっと待つ。
渋滞にはまりそこを抜け出し、また渋滞が続き…
やっと快調に走り出したタクシーは今、私の見知っている景色の中を走っていた。
この辺りは、私の通院している病院の近く。
度重ねた外出練習の成果で、今ではこの病院までなら自信を持って一人電車で通える様になっていた。
リハビリと言うのは身体機能の回復向上を図るだけでなく、
自信を付け、不安を払拭するという、メンタル面を鍛える事でもあるんだと実感していた。


