いつも通り優しく温かく、私を愛しそうに見つめる瞳。



少し潤んで揺れているのは、これから一週間会えなくなるから?



なんだ…淋しいのは私だけじゃないんだね。



私に帰省を勧めたのは流星なのに、私より淋しそうな顔してるよ、ふふっ。




「流星…ドア閉まっちゃう」



「ん…下りなくちゃ…ね…」




流星はギュッと強く抱きしめてから手を握り、今度は足早にエレベーターを下り、正面玄関まで歩いた。




すっかり日が落ちて、夜の気配に包まれる冬の空。


雲に霞み月明かりは頼りなく、星も見えない。



だけど、建物や車や街灯の明かりで東京の夜は暗くならない。



正面玄関前のバス停も明るく照らされ、自動扉越しにはっきりと見える。



私が乗ろうとしているバスがそこに向け、徐行しながら近付いていた。



バス待ちで並んでいるのは5人。

早く行かないと乗り遅れる。




「それじゃあ一週間後にまたね!」



「…ん… …元気で…」




いつもより冷たい流星の手が、ゆっくり私の手を離した。



彼に背を向け歩き出す。



自動扉が開くと、1月の夜の冷たい外気が入り込んでくる。



その中に一歩足を踏み出した時、

「紫!」と呼ばれて振り返った。




「笑って!」



そう言ってスマホを構える流星は、

小鼻を広げ舌を出して…変顔しているから、吹き出して笑ってしまった。



「カシャリ」とスマホから聴こえる機械音の後、

私達の間を自動扉が隔てる。



流星に手を振り気持ちだけ急いで、とっくに停車しているバスに向かう。



私が乗り込むのを待ってくれたバスは、見知らぬ善人が譲ってくれた座席に私が座ると同時に発車した。



座った側の車窓から見えるのは、流星のいる病院の玄関ではなく…

反対側の車線とビル群。



だから、分からなかった。



見逃してしまった。



流星が静かに涙を流し…

自動扉の前にしゃがみ込んでいたのを……





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「……側にいたら…また怯えさせる……

いつか君から…笑顔を奪う事になる……

紫…ごめん……これが最後…さよならだよ……」




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