ハアハアと荒い呼吸をしながら、ベットから足を下ろし、立ち上がった。
水は冷蔵庫の中…
そこまでの数歩の距離が、やけに遠く感じる。
体が重い…
特に麻痺側の右手足が、鉛の様に重たい……
リハビリも頑張っているし、
「若さの可能性は無限大だな」と主治医も驚く程の機能回復をし続けているのに…
今感じる麻痺手足は、振り出しに戻ったかのように動かし難い。
喉が焼ける様に痛く、唾を飲み込んでも染みる。
その刺激で「ゴホッ」と咳込んだ瞬間、
体のバランスを崩し、ドタンと床に倒れ落ちた。
「痛っ…」
よりによって受け身の取れない麻痺側から転んでしまい、右肩と頭を床に打ち付けてしまった。
私ってバカ……
水と薬と着替えを、ベットサイドに準備してから眠れば良かった。
体が動かない……
起き上がれない……
頭が働かない……
これはヤバイかも………………………――――――
「どこが熱に強いんだよ……
全然大丈夫じゃないだろ……」
そう、声が聴こえた気がした。
体がフワリと浮いて、柔らかいベットに下ろされた。
口に薬が押し込まれ、冷たい水が喉を潤して行く。
うっすら目を開けると、目の前に綺麗な茶色の瞳が見えた。
「流…星… ダメ……
帰って… 近付いたらダメ……」
「分かってるよ。これから帰るから、俺の事は心配しなくていい。
だから紫は眠りな…早く元気になって……」
浅い眠りの中、譫言(ウワゴト)の様に
「ダメ…帰って…」と繰り返していた気がする。
それでも優しい手は一晩中私の手を握り続け、離れてはくれなかった。
◇
翌朝8時過ぎに目が覚めると、流星の部屋で寝ていた事に気付いた。
エアコンの温風が流れ、部屋の中は暖かく、加湿器からは白い湯気が立ち上っている。
流星の姿はなかった。
でも…この状況から考えて、彼が看病してしまった事を理解し、溜息をついた。


