築50年以上の古い柏寮は、修復の仕様がない程あちこち傷んでいるし、寿命での取り壊しには納得している。
でも…この柏の木は、まだ生きられるのに……
今年の初めに柏寮の取り壊しの話しが出て、
その時寮長の亀さんが、この木だけはどこかに植樹してくれないかと、学校側にお願いしてくれていた。
返答はNO.
簡単に植樹と言っても、重機にトラックに人夫代と…
切り倒すより、遥かにお金が掛かってしまう。
木が可哀相なんて言う子供の感傷的な理由じゃ、
大人の現実的な都合を変える事は出来なかった。
「ごめんね…」
そう呟き、ザラザラした木肌に頬を寄せた。
冷たく固い木肌に何と無く温もりを感じるのは、
きっとこの木と共に過ごした数々の思い出が浮かんでくるから。
2年にも満たない短い柏寮での日々。
だけど色んな事があって、沢山泣いて沢山笑った……
柏の木に抱き着いたまま、目を閉じ、浮かんでくる思い出に浸っていると、
一階の廊下の窓がガタガタ、ガラリと音を立て開けられた。
パジャマ姿の流星が、入り込む外気に寒そうに身を縮ませながら私を呼ぶ。
「急にいなくなったから探したよ。
こんな早朝に何してんの?」
「どんぐり拾おうと思って」
「どんぐり?柏の木の?」
「そう」
足元に落ちている茶色い小さなどんぐりを一つ拾い上げ、ひょこひょこ流星の下まで歩いた。
不思議そうな顔を向ける彼の手にそれを乗せる。
「この柏の木は切られちゃうけど、せめてどんぐりを拾って何処かに埋めようと思ったの。
富良野に持って帰って埋めようかな?
この木の子供が、富良野で成長する姿を見れるのって、いいと思わない?」
「なるほど…紫らしい思い付きだね。
待っていて、俺も着替えてそっちに行くから」


