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東京に戻る日の前日、
閉店時間の少し前に、レジにいる私を流星が呼びに来た。
「紫、後の片付けは瑞希に頼んだから、大樹の所へ一緒に行こう」
「それって…もしかして……」
昨日の時点で、大樹はまだ弓を引くには到っていないと、流星に説明されていた。
だから、私達がフラノに居る内に、大樹にもう一度弓を引かせるなんて、無理なのかなって…
少し諦め気分だった。
期待と驚きを込めて流星を見上げると、彼はニッと笑った。
「今日、大樹と弓道勝負するから」
「大樹が…勝負するって言ったの?」
「するとは言ってないけど大丈夫。
昨日いいだけ言い包めてきたからさ。
今頃焦って練習してるんじゃないかな?」
何度も言うけど、大樹は頑固だ。
一度決めた事を覆すのは難しい。
流星が弁が立つのは知っているけど、言い包めたって…具体的に何を言ったのか。
その疑問を流星に尋ねると、「んー…」と唸り目線を逸らし、一拍置いてから笑って言った。
「それは言えないなぁ。
俺と大樹の秘密だから」
「えー?どうして秘密なの?
隠されたら余計に気になるよ」
「気にしない気にしない。
ハハッ 膨れっ面も可愛いな〜」
流星は私の頬っぺたをツンツン突いて笑うだけで、
大樹に何て言ったのか、とうとう教えてくれなかった。
気になるけど…嬉しいから、まぁいいか。
大樹と一緒に育った私でさえ、今回は説得方法が見つからなかったのに、
たった一週間で、大樹の決意を反転させてしまうとは。
喜びと同時に少しの嫉妬を感じながら、
流星の漕ぐ自転車の荷台に揺られ、大樹の家に向かった。


