大樹の家を出て、自転車で来た道を戻る。
辺りはすっかり、濃い闇に包まれていた。
長い間隔でぽつりぽつりと点在する外灯の明かり以外は、
頼りない自転車のライトと、擦れ違う車のライトに頼るしかない。
その代わり頭上には、目映(マバユ)い星達が今宵も見事に神話の世界を描き出している。
紫の家に着き、玄関横に自転車を止めた。
ふとラベンダー畑の方向に目を遣る。
今年のラベンダーは花の季節を終え、ライトアップも今はされていない。
今目の前に広がっているのは、ただの真っ暗な空間。
だけど俺の目には、ラベンダーと星空の風景がしっかり焼き付いて、
何もない闇の中にも、色鮮やかに浮かび上がらせる事が出来る。
6年前のあの夏に、幼い紫と見たこの風景も…
6年後のこの夏に、17歳の紫と見たこの風景も…
ありありと瞼の裏に描き出す事が出来るんだ。
来年も再来年も、この先ずっと紫と一緒に見続けたい。
終わりが来てしまうその時まで……
そんな事を考えても、哀しくはなかった。
その扉を開ければ
「流星お帰り!」と、笑顔の紫が迎えてくれて、
俺の好きな、だし巻き卵を焼いてくれるから。
心の中は温かい。
間違いなく今の俺は、幸せの真っ只中にいた。


