空想で描いていた“紫(ムラサキ)ちゃん”は、どこか弱く、儚げだった。
だから物語の少年には、彼女を守る為に彼女の前から姿を消すという結末を選ばせた。
だけど紫は、本の中の少女を暗に否定した。
「私はこんなに弱くない」と…
あの時、そう言いたかったのだと思う。
紫はラベンダーの様に強くて凛として、優しい香りの漂う女の子。
だから大丈夫…
そう遠くない未来、俺が君の側にいないと知っても……
紫なら大丈夫……
さっきまで怒りに満ちていた大樹の瞳、
今は、哀れみと恐れと不安に支配されていた。
大人しくなった大樹をからかう。
「あれ…喜ばないの?」
「紫が苦しむって分かってんのに、喜べる訳ねーだろ」
「成長したな、大樹」
「うるせーよ…」
喜ぶと言ったのは冗談だが、俺の告白は予想を超えて大樹に衝撃を与えた様だ。
その後も何度も溜息をつき足元を見つめ、俺の言葉を受け入れ様と努力していた。
しばらくしてヤンキー座りの大樹が、顔だけ上げて俺を見た。
「で…? それは分かったけど、何で勝負しないといけねーんだ?
そうなったら、紫を賭けるとか勝敗とか、意味ねーだろ?」
「あるよ。お前…怖くて弓道辞めたんだろ?
紫を傷付けた時の気持ちが蘇る。それが怖いんだろ?………ヘタレだな」
「………」
大樹は否定しない代わりに、恨みがましい視線で俺を見る。
ヘタレ…そのままじゃ困るんだよ……
「お前は力は強いけど、メンタルが弱い。
恐怖心くらい乗り越えて貰わないと、こっちが困る。
弱い奴に、紫の未来を守らせたくないからな。
明日は俺、8割的中させるから。
大樹は半年以上弓を引いてないだろ?俺が勝つかもな」
「弓道なめんなよ…8割の壁越えんのに、何年かけたと思ってんだ」
「弓道は舐めてない。
相性いいと思っているだけ。
大樹の事は舐めてるけど」
「てめぇは……
マジでムカつく…」
「じゃあ、そういう事で。
明日は店終わったら紫も連れて来るから、情けない顔するなよ」


