「あー知ってた知ってた、アッハッハ!
これでも一応母親だからね。
大樹が何も言わなくても、息子の事くらい把握してるつもりだよ。
把握してるつもりだけど、一つだけ分からないんだよね……
紫、大樹から聞いてるかい?
あの子、しばらく弓に触りもしないんだよ…」
大抵の事は笑い飛ばしてしまう豪快な大樹のおばさんが、顔を曇らせてその事に触れた。
大樹は弓道を辞める理由について何も語らない。
サバサバしてるおばさんでさえ、息子に理由を聞けずにいる。
「うん…聞いた…辞めた理由も分かってる……
おばさん、今日は私、大樹にもう一度弓を引かせる為に来たの。
上手く行くか分からないけど…大樹を怒らせるだけかもしれないけど…
このままにしておけないから」
大樹のおばさんは蚊に刺された二の腕をポリポリと掻きながら、私の目を物問いたげに見ていた。
でも詳しく説明しろとは言わなかった。
「頼むね」と一言言って目尻に皺を寄せただけで、
昼過ぎのワイドショーを見に居間に戻って行った。
流星の腕に掴まりながら階段を上る。
階段の途中で流星が小声で言った。
「大樹のおばさんてさ、慶子さんに似てない?」
「似てるよね!
私も慶子さんを初めて見た時にそう思った」
「だよね。俺あとでおばさんと一緒に写メ取りたい。
東京に戻ったら、慶子さんに見せて、親戚かどうか聞いてみたい」
流星と顔を見合わせ笑っていた。
親戚な筈がないと思うけど、笑った事で緊張していた気持ちが和らいだ気がした。
二階の開け放たれた廊下の窓から、階下に向け涼しい風が吹いていた。
二階の一番奥の部屋が大樹の部屋。
その前で足を止めた。
全開の窓には青色のカーテンが引かれ、ドアも開けているから風が流れて涼しいけれど…
部屋の中は相変わらず散らかり放題、良風の心地好さも半減してしまう。
そんな汚い部屋の中、大樹はベットから足をはみ出し爆睡中だった。
「すげ…汚い部屋…」
流星はポツリとそう言って、部屋の有様に怯(ヒル)んでいる。
一方私は慣れているから、床に散乱した衣類を踏み付け、そのまま中に入って行った。


