ただ…誘ってくる女性客に対し、
「お姉さん超美人だし、どうしよっかな〜?
これとこれも、買ってくれたら考えちゃおっかな〜?」
なんて…
売上を伸ばす為に、チャラ男モードで接客する姿を見た時は、
「そこまでして売らなくていいから!」
って怒ったけど……
「え〜?本当にアレ放っといていいの?
大ちゃんがこっそり、お姉さん達と連絡取り合ったりするかもよ?
心配しないの?」
「流星はそんな事しないよ。
それに私だって…ほら同じだから」
エプロンのポケットから取り出して瑞希君に見せた物は、
メールアドレスと電話番号の書かれた紙切れ一枚と、名刺が一枚。
中学生の時にはこんなの貰わなかったけど、高校生になった去年の夏から、男性客に渡される様になった。
最初はどう対応していいのか分からず困った。
でも、もう慣れてしまい、今は笑顔で頂戴している。
去年貰った連絡先の合計は…30枚位だったかな……
今年はまだ数えてないけど、このペースで行くと去年の枚数を超えそうだ。
名刺を見ながら、口をあんぐり開ける瑞希君に、笑ってしまった。
「紫ちゃん…それどうするの?
僕、嫌な予感がしてるんだけど……
まさか、律儀に電話しちゃったりメールしちゃったり…してないよね?」
「電話はしてないけどメールはしてるよ。
貰った全てのアドレスに」
「… は? いやいや、紫ちゃん馬鹿?
ダメだよそんな事しちゃ!」
慌てている瑞希君だけど、別に自分のスマホからメールしてる訳じゃない。
女として見られ誘われてるって…その位分かってるし、私だってそんなにバカじゃない。
「家のパソコンからお店用のアドレスで、来てくれたお礼と来年もよろしくってメールしてるんだよ。
返信不可なヤツでね。
うちの店のホームページのアドレスも添付して、あわよくば、ネットショップで何か購入してくれないかなーなんて思って」
「なーんだ、そうかぁ…
君の事だからてっきり…あーびっくりしたー」
瑞希君が大袈裟に息を吐き出して見せた時、レジに常連のお客さんが近付いてきた。
「やぁ、一年振り!
紫ちゃん元気だった?」