退院手続きを済ませ、
1ヶ月分の荷物を整理し、鞄や袋に詰めた。
10時に流星と瑞希君が迎えに来てくれて、お世話になった病院を後にした。
タクシーを下りると流星に支えて貰いながら慎重にゆっくり歩き、玄関前で足を止めた。
見上げると古い木造の建物が、静かに優しく私を迎えてくれる。
「紫? どうした?」
「うん…
心の中で柏寮に“ただいま”って挨拶してたの。
私…本当に帰って来れたんだ…嬉しいな……」
たった1ヶ月留守にしていただけなのに、既に懐かしい気持ちがする。
いや、懐かしさは1ヶ月の留守のせいだけじゃない…
柏寮を初めて見た時も、昭和の雰囲気にどこか懐かしさを感じたんだ。
こんなに味わいある建物なのに…
そろそろ壊さなければならないなんて…淋しいな……
感慨に耽り玄関前に佇んでいると、後ろの荷物持ちの瑞希君に急かされた。
「立ち止まらないでよー。
君の荷物、重いのにさー」
「あっ ごめんね」
流星が玄関ドアを開ける。
キィッと軋む扉の音も久しぶりで嬉しく思う。
玄関の小さな段差を跨ごうとし、バランスを崩してしまった。
流星ががっちり支えてくれるから怖くないけど、
こんな小さな段差で崩れる様じゃ、一人で外出する日はまだまだ先になりそう。
玄関の上がり口に座り靴を脱いでいると、
亀さんとたく丸さんが部屋から出て来て
「お帰り」と笑顔で迎えてくれた。
今日は平日、当然授業があるわけだけど、
全員が私の退院の為に学校を休んでくれていた。
しかもそれだけじゃなく……
「学校は何もしてくれないけど、俺達に出来る範囲で、月岡さん仕様に改修してみたんだ。どうかな?」
亀さんはそう言って
『私仕様』と言った箇所を説明しながら廊下を進んで行った。