意識が戻った事を、父が知らせに行ってくれた。


すぐに年配の男性医師と若い女性看護師が2人やって来て、

皆を一旦廊下に出し、私の診察を始めた。



声を出せるかと尋ねられ試みるが、息が酸素マスクの内側を白く曇らせるだけで、音にはならなかった。



すると医師が酸素マスクを外し、口の中を少量の水で湿らせてくれた。



酸素マスクを外されても苦しさは感じない。



もう一度発声を試みると、今度は掠れる様な声を出す事が出来た。



それを繰り返している内に音が言葉になり、

弱々しい声だけど、会話が出来る様になってホッとしていた。



医師の説明によると、後頭部を強打した私は、あの後すぐに救急車でこの病院に搬送されたそうだ。



救急車の中で心肺停止状態になり、蘇生処置を施されながら救命センターに運ばれた。



医療者の努力で再び心臓が動き出したが、出血が酷く、

頭蓋骨内に溜まった血液が脳を圧迫し、危険な状況は暫く続いたらしい。



すぐに開頭手術を受け一命を取り留め、

階段を落ちてから2日後の今日、やっと意識が戻ったとの話しだった。




並べられた病名は5つ。

頭蓋骨線上骨折

外傷性くも膜下出血

急性硬膜下血腫

脳挫傷

右上腕部裂傷




一命を取り留めた後、脳へのダメージの程度が心配されていたが、

こうやって話しを理解し返答が出来る所をみると、懸念された言語障害はないと言われた。



ただ…

運動機能には障害が残る。
元通りにはならないだろうと重い宣告も受けた。




「動かしてごらん」と言われ、動かせたのは左手左足。



頭はまだ動かしてはいけないと言われたが、ほんの数センチ左右に首を振る事は出来たので、

きっと持ち上げようと思えば、頭を持ち上げられると思う。



右腕右足は…

どんなに頑張っても、指一本さえ動かす事が出来なかった。



医師に右足を持ち上げられると、ピリピリとした痺れが足全体に走った。



触れられている感触も分かるし、ペン先で押されると痛覚もちゃんと残されていた。