返事をしてくれない彼女。
その顎を掴み顔を上げさせると、戸惑いを隠せない瞳が俺を見つめた。
何に戸惑っているのか分かってるよ……
頭に引っ掛かるのは
大樹の存在……
紫は今は大樹の彼女。
俺を連れて帰るのはマズイと分かっている。
だけどもう…君を諦めるのは不可能なんだ。
夏休みの終わりに大樹を選ぶと言われた時、ショックはあったが仕方ないと思ったんだ。
心身共に不安定な俺なんかより、大樹と結ばれた方が彼女の為だって思ってた。
今は辛くても、時が経てば彼女への恋心を忘れられると思ってた。
けれど…あの夏を取り戻した以上、諦めるなんて無理。
俺は紫を想っている。
紫も俺を想っている。
大樹には悪いが、紫だけは譲れない。
紫の手首を掴み立ち上がらせる。
ベットに座らせ、その隣に俺も座った。
彼女の両手を握りしめ、涙に濡れる漆黒の瞳の奥を覗き込んだ。
紫は今…心の中が揺れている。
大樹への想いと
俺への想いの間で…
その気持ちは瞳に色濃く表れ、ゆらゆら揺れる瞳が、苦しい胸の内を語っていた。
彼女が顔を逸らしかけたので、
慌てて頬を押さえ俺の方に向かせた。
「逃げないで…
頼むから…俺を見て…
もう無理なんだ。君を離せないんだ。
俺を受け入れて……
紫…紫… 愛してる……」
「あ… 私…大樹が……
どうしたらいいの…?
私が“紫(ムラサキ)ちゃん”だと…気付かれたらいけないと思ってた。
バレたら流星を益々傷付けるから…
それなのに…思い出してくれて…嬉しくて堪らないの……
私は大樹の物なんだよ。
でも…私は流星が…
分かんないよ…苦しいよ……」
『愛してる』と言っても、彼女から返ってきた言葉は、
「私も…」じゃなく
「大樹が…」
大樹…
君は彼女の中の、大切な部分を占めているんだな…
それが恋じゃなくても、
俺が入れないその部分を独占している事に、
強い嫉妬を感じてしまう…
彼女の左手を取り、手首に巻かれた鎖を外した。
「流…星…」
「このブレスレット、暫く預からせて。」


