ラベンダーと星空の約束

 


「今来たばかりだよ。

あれ…髪の毛濡れてるよ?お風呂上がり?風邪引くよ。

急いで来なくても、乾かしてからで良かったのに…」



「大丈夫。まだ夏だもん」





フラノの晩夏は日が落ちると急に冷え込む。


風のない今宵は寒いとまではいかないけど、半袖の上に一枚上着が必要な気温だった。



それなのに彼女は日中と同じTシャツとショートパンツ姿で、

寒そうな素振りは微塵も感じない。



北国育ちの彼女と僕じゃ、
寒さへの耐性が元から違うのだろう。



真冬になればマイナス30度まで下がるんだ。
当たり前の事かも知れないな。



彼女と並んで星空を眺め、
せがまれるまま、夜空に神話の世界を描いていく。



白鳥座、琴座、ヘルクレス座、冠、鷲、蛇使い、射手、蠍 ……



夏の星座は全て彼女に話して聞かせた。



もう新しい話しはないけど、
それでも彼女は繰り返し同じ神話を聞きたがった。



一時間程星座の世界を旅してから、大切な話しを切り出した。



まだ帰る日を伝えていなかったんだ。



出会った時に、約一ヶ月の滞在だと伝えていたから、

そろそろ別れの日が来ると分かっていると思う。



だけど彼女は
「いつ帰るの?」
とは聞いてこなかったし、

僕も中々言い出せなかった。



泣かせたらどうしよう…

不安を抱えながら話しを切り出した。




「紫…あのさ…

僕…明後日の朝早くにここを出て、東京に帰るんだ……」



「明後日… あと2日…」



「うん。淋しい…?」



「淋しい…けど…嬉しいよ!」



「えっ? 嬉しいの?」



「うん! だって東京に帰ったら手術するんでしょ?

手術したら流星の心臓は元気になるんでしょ?

それなら嬉しい!」



「…… アハハハッ!」





泣かせてしまったら…
なんて考えてた自分の間抜けさに可笑しくなって、笑い出した。



そんな僕の様子に彼女は不思議そうに首を傾げる。



彼女が僕に好意を寄せてくれるのは、十分に伝わっている。



別れを悲しまない筈はない。


それなのに笑顔で
「嬉しい」と言ってくれるんだ。



一時の淋しさよりも僕の体を気遣い、微笑んでくれたんだ。