父は母と顔を見合わせ頷いた。
優しい声で私に言う。
「特待生になれたら行ってもいい。
だが…卒業したら必ず帰って来い」
「お父さん…いいの?」
「おう。紫、勉強頑張れよ」
東京行きを許して貰えた…
勉強よりも何よりも難関の両親を説得出来たのは、大樹のお陰。
受験に関して「協力しねぇ」と言われていたが、
大樹は私を助けてくれた…
両親が許してくれたのが嬉しくて…
大樹が味方してくれたのが嬉しくて…
喜びを表現するべく、思いっ切り大樹に抱き着いてみた。
「大樹、応援ありがとう!
絶対に特待生になって、流星に会いに行くからね!」
私より10cm程上にある一重の瞳に向けて、決意表明すると、
なぜか物凄く嫌そうな顔をされる。
首に絡めた私の腕を乱暴に解き、大樹は背を向けた。
「応援してねぇ。落ちろ、ばーか」
本物のバカに馬鹿にされたくないと、言わせてもくれず、
大樹はさっさと帰ってしまった。
何あいつ…
味方してくれたり、落ちろと言ったり…
意味が分からない。
大樹が出て行ったリビングドアを、納得行かない顔で見ていると、
母がボソリと何かを呟いていた。
「あーあ…大樹可哀相…
うちの娘は何でこんなに鈍いかな…」
「ん? お母さん、何か言った?」
「なぁんにも。
さて、茶碗でも洗うか…」
夕食後の茶碗はさっき私が洗ったのに…
逃げる様にキッチンに向かう母を見ながら、首を傾げた。
大樹もお母さんも、何か変……


