流星がティッシュの箱を渡してくれた。
涙を拭いて、流星の顔を見つめた。
右頬には笑窪。
口角が上がってニッコリと笑顔を形作っている。
5年前の面影を残すその笑顔は…
成長とは無関係の何らかの相違点が感じられた。
あの夏の流星の笑顔は、眩しいくらいキラキラと輝いていた。
今の流星は…
笑ってるのに…瞳だけは笑ってない。
愛想よく向けられる笑顔の中で、
綺麗な茶色の瞳だけが、別の感情を示している。
その瞳から私が感じ取ったのは……諦め、落胆、悲哀……
いや、気のせいかも知れない。
夕暮れの淋し気な光に、そう見えるだけかも知れない……
紫(ムラサキ)ちゃんを超えられなかった私は…
流星にとって…
もう、どうでもいい存在だから……
流星に聞こえないように小さく溜息をつき、立ち上がった。
部屋を出ようとすると、呼び止められた。
「ゆかりちゃん……しつこい様だけど、もう一度確認させて?」
「何を?」
「本当に君は紫(ムラサキ)ちゃんに関して、何も知らないんだよね…?」
「……… うん。知らない」
「ん。分かった。
それ…ブレスレット付けてるの初めて見た。大樹からのプレゼント?
あ、獅子座って言ってたから8月の誕プレか」
「うん」
流星の視線はブレスレットに向いた後、私の衿元に移る。
衿からチラリと見えているのは、シルバーチェーンのネックレス…
視線に気付いてギクリとしたが、流星はそれ以上何も言わなかった。
私はそのまま、彼の部屋を後にした。