部屋に入るなり、ベットに押し倒された。
「待って、Tシャツ伸びちゃうから自分で脱ぐ」
「そのくらい別にいいだろ…
お前はマジでムードもへったくれもねぇな」
「何よ。大樹だってムードなんて作れないでしょ?お互い様だよ」
体を重ねる前、大抵こんなバカな言い合いから始まる。
確かに私達の間にムードは皆無。
それでも大樹は情熱的に愛してくれたし、
私だって、触れられるとそれなりに甘い声が出た。
初体験の時みたいな痛みを体に感じることはない。
でも…大樹と体を合わせる度に心が痛い。
どうしたって流星を思い浮かべてしまうから。
日焼けした筋肉質の裸を見ながら、
流星の白い胸元と手術跡が頭にチラつく。
少し荒いキスを受けながら、
流星の優しいキスを思い出す。
流星が頭に浮かぶ度、首を横に振り、大樹の事で頭を一杯にしようと必死になった。
その心は見透かされる…
大樹は私を抱きながら、時々苦しげに顔を歪めた。
そんな顔しないで…
ごめん…
大樹ごめんね…
心の中で謝り、
自分から大樹の顔を引き寄せ、そっと唇を重ねた。
体を離した後、
着替えている私に、ドキリとする言葉が投げかけられた。
「お前まだ流星に言ってねぇだろ。あと一日しかねーぞ」
「うん…」
「言わずに戻るつもりじゃねぇだろうな?」
「……… 明日、東京に戻ってから言うのは駄目?
電話だと言い難いから…」
「ダメだ。電話だろうが面と向かってだろうが、言い易い話しになるわけねぇだろ。
お前は流星を傷付けないようにって言うけどな、
傷付けない方法なんて無ぇ。
傷付ける事を覚悟して今電話しろ」
「………」
大樹は珍しくもっともな事を言った。
少しでも流星の受ける傷が小さくなる言い方は…
そんな風に考えたけど、
そんな物はない。
傷付けずに告白を断る方法なんてない。