「大樹ー、今晩泊まるのー?布団出したげよーかー?」
「いらなーい。今帰るー。
…… 紫…明日からも午前中だけは店手伝ってやるよ」
「えっ?いや、いーよ。
大樹も畑の手伝い忙しいだろうし、私がいるから大丈夫…」
「いいから!バイト代もいらねーし、皿洗いでも品出しでも何でもやってやるよ!
……だから…紫の………………」
大樹…?『紫の…』の後何て言ったの?
小声でボソッと呟いた言葉は聞こえなかったけど、
出て行く前に振り返って一瞬だけ見せた瞳が……切なげに揺れていた。
心臓がドキンと大きく跳ねた。
階段を下りて行く足音を聞きながら、私は考え込んでいた。
苦しそうな顔して…
泣き出しそうな目をして…何で?
疲れが溜まってるから?
それとも私…何か大樹を傷つけるようなこと言った…?
今日大樹と交わした会話を一つ一つ思い返してみたが、分からなかった。
瑞希君と流星に言われた言葉が頭の中をかすめた。
『紫ちゃんて人の気持ちに疎(ウト)いよね…』
『ゆかりちゃんて天然だからさ…』
私…また何かを見落としてる…?
何か大切な事に気付けていない…?
大樹…言ってくれないと分かんないよ。
どうやら私は、人の気持ちの分からない欠陥人間らしいから。
疲れているだけなのか、傷つけてしまったのか……
誰より身近な存在の、大樹の気持ちが分からなかった。
明日になったら、いつもの大樹に戻っているかな…
そうだといいんだけど……


