大樹が帰った後、
暗くなる前に自転車を30分走らせ本屋に行き、
流星の書いた本を買って帰った。
玄関横に自転車を留め右側に視線を向けると、
自宅の30m先にある土産物兼軽食屋の、平屋の店舗が目に入る。
『ファーム月岡』と看板を掲げた店の窓ガラスに、数名のお客さんの姿が映っていた。
4月になったばかりの今、北の大地にまだ花は咲かない。
シーズンオフのこの時期、観光客は疎(マバ)らで暇な日が多いのだが、
今日は珍しく忙しいみたい。
夏には紫色に染まる店の裏の丘は、まだ部分的に雪を残していた。
色味を失ったラベンダーの葉が、雪の下からちらほらと顔を出している状態だ。
そのラベンダー畑の中に父の背中を見つけた。
忙しそうにラベンダーの世話をしている。
丘の向こうに夕日は沈み、
西の空の端が稜線に沿って、うっすらとオレンジ色の光を残していた。
夕陽色に染まる作業着姿の父の背中…
店のガラス窓に映る忙しそうな母の影…
働く二人の姿を見ながら、買ってきた本を抱きしめ立ちすくんでいた。
うちは家族経営の小さな観光農園。
ラベンダーの季節は特に忙しく、
中学生の私だって一人前の働き手。欠かせない人材だ。


