「大ちゃーん! 準備始めるよー!」
「OK!」
返事が返ってきた方向へ目を向けると、
2階の廊下の窓から流星が顔を出していた。
準備ってこれ以上何をするの?
これから素麺を茹でるの?
そう思っていると、
亀さんとたく丸さんが長い竹筒をヨイショと持ち上げ、
2階にいる流星がその先端を受け取っている。
まさか……
素麺を2階から流す気!?
驚きは当たっていた。
流星は2階の窓枠に竹の上端をくくり付けているし、
亀さんとたく丸さんも、庭の中央に設置された机に、竹の下端を固定し始めた。
45度位の急角度で固定された素麺を流す竹を見て、私は唖然としていた。
「瑞希君…この角度で素麺を流すの?絶対取れないでしょ…」
「だから面白いんだよ!
素麺を何本掴めるかの大会だもん、これくらいの角度を付けないとね。
ザルに落ちた素麺は後で皆で食べるから心配しないで」
なるほど。
だから流し素麺に『大会』が付いてたのか。
この大会一人何本の世界なんだね。
毎年恒例って今までの最高記録は何本なんだろう?
「よし、始めるか。
まずは…お手本にたく丸からにしよう」
亀さんがそう言うと、
たく丸さんは箸とお椀を持って、竹の横で構えを取った。
いつもはキョロキョロとどこか落ち着きないたく丸さんの瞳が、
今は妙に真剣みを帯び、睨む様に2階の流星の手元を見上げている。
「んじゃ、一杯目流しまーすっ」
流星はお椀一杯分の素麺とホースの水を同時に竹に流し始めた。
えっ…… 速っ!!
予想はしていたけど、超ハイスピードで流れる素麺は、
下に落ちるまで恐らく2秒もかかっていない……
これは…掴めないでしょ?
と思っていたが、たく丸さんはニヤリと笑って割り箸を私に見せた。
「たく丸さん凄い!!
えーと、1、2…、5本も取れてる!!」