『 待ってるね
紫 』
今も待っているのかな…
そんなわけないか。
フラノに行ったのは、小学6年の夏。
今から3年も前の話しだ。
待っているわけない…
そう考える方が自然だ。
だが、
待っていて欲しいと…
待っているに違いないと…
信じていたかった。
押し潰されそうな罪悪感と後悔の中、
紫(ムラサキ)ちゃんの言葉は優しく胸に響いた。
俺を待っている人がいる…
生き続ける事を望んでくれる人がいる…
それだけが救いだった。
退院後の約2ヶ月間で一つの物語を書き上げた。
それは紫(ムラサキ)ちゃんと自分の恋愛小説。
あの夏を全く思い出せないから全部空想だけど、
きっとこんな事があったんじゃないかと、恥ずかしい願望を文章にしてみた。
フラノの短い夏、
ラベンダーの香りの様な優しい少女と、心臓病を抱えた少年は恋をした。
夏の終わり、心臓の手術の為に東京に帰る少年は、少女に約束をする。
手術が成功したら必ずフラノに戻ると。
美しい北の大地で、君と一緒に生きたいと。
少女は「待ってる」と言い、嬉しそうに微笑むんだ。
心臓移植の話しは書かなかった。いや、書けなかった。
これに関しては、まだ心の中がぐちゃぐちゃで、文章に出来そうになかった。
だから物語の少年の心臓手術はシンプルなものにした。
健康体を取り戻した少年は、約束通り彼女の元へ戻るんだ。
二人の幸せはこのまま続くと思われたが…少女は怖れている。
手術から1年目2年目3年目と、節目の日を迎える度に、
少年が「〇年、生きられた」そう言うから。
いつか自分の目の前で少年が死んでしまうのではかと…少女は怖れているんだ。


