「ちょっ、ちょっとまって。」

バタバタしながら、矢島くんの手を振りほどいた。


「だめ?」


「え?」

「ねえ、だめ?」


「いや、あの…だめというか…。」


「恥ずかしい?」


「う、うん…でも…。」


「目、つぶれば大丈夫だよ!」


ああ、そうじゃなくて…
もう、どうしたら逃れられる?

時折顔に当たる飛沫が、しょっぱくて泣きたくなる。


「ね、こっち向いて。俺のこと嫌い?」


「え、あ、嫌いじゃないけど…でも、ここは、ちょっと…。」


「あ、そうか、場所かー。うん、分かった。戻ろう!」


場所じゃなくて…ああ、どうしよう…。
矢島くんは、キスする気だ。


浜に、着いたら言わなきゃ。
無理だって。
できないって。

水の中は心地いい。
だけど、心はザワザワ落ち着かない。



矢島くんは、私の浮き輪を押しながら、ぐんぐん泳ぐ。


もう浜が、あんなに近くに見える。


必死に泳ぐ矢島くんの顔を見るたび、胸が苦しくなった。