あの頃の上原くんの気持ちが知りたい。




震える指で、教科書をめくれば、


「五月雨の降りのこしてや光堂」

という俳句にも、大きく〇がついていた。



これは…?


私は、隣に書かれた手書きの現代語訳に目を通す。


「あたりの建物が、雨風で朽ちていく中で、光堂だけが昔のままに輝いている。
まるで、光堂にだけは、五月雨も降り残しているようなことではないか。」


光堂だけは、何があっても変わらないということ…。


上原くんの現代語訳には、まだ続きがあった。


「…俺も変わらない。」と、最後に小さく書かれている。



俺も変わらない…?


変わらない…。



ああ、あの日、ボタンをつけながら、そんな話をしたかもしれない。


変わらない気持ちの話を。