私たちは、ふざけて名前を書いた。

マジックで書く度胸はなく、鉛筆で小さく書いた。



「ずっと残っていたら、すごくない?」


綾香が言った。

鉛筆だし、いつか消えちゃうって分かっていても、みんな「うん」と頷いた。


この時間が、ずっと続くような気がしていた、あの夏の日。




明日の卒業式を前に、上原くんは思い出いっぱいのこの場所で、何かのケジメをつけたいと言った。


なんだかそれは、永遠の別れを意味するようで、とても悲しくなった。

私の手の中にある上原くんの教科書は、懐かしい想い出がいっぱい詰まっている。




「もういらないんだ。」


上原くんの言葉が、頭をよぎる。

…もう、みんなとの想い出も、私との想い出も、全部いらないってことなんだろうか…。



私は、今でもこんなに好きなのに…。



もう一度、壁に書かれた名前を見れば、上原くんのだけ、流れ星のしっぽみたいな、指で擦った痕がある。


私は持っていた鉛筆で、みんなの名前をなぞった。

上原くんの名前は、一番力を込めて濃くなぞった。