「日記もこれで書いたし、結に宛てた手紙も書いたことあるよ。」



「手紙?」



「そう…会いたくてどうしようもないときは、そうして心を鎮めてた。」



「…その手紙、くれないの?」



「あげるわけないでしょ。…ていうか、もうとっくにあげていたりもする。」


「えっ?何それ?私、何にももらっていないよ。」



上原くんは、ちょっと考えてから、思い出すように話しはじめた。


「…俺が、中学の卒業式前にあげたもの、覚えてる?」



「うん、あの落書きいっぱいの教科書…だよね?」


「そうだよ。」


「えっ?だから何?」


「なんでもねーよ、相変わらずうるさいなー、結は。」


「ちょっと何?何?教えてよ~!」



「もういいんだよ、あれは。」


上原くんは、半分笑いながら、恥ずかしそうに頭を掻いた。

教科書…?

もらった日から毎日眺めていたけれど、手紙なんか挟まってなかったなあ…。



「まあとにかく…俺はこの万年筆にずっと助けられていたんだよ。」

と、嬉しそうに話してくれた。



「結は、俺の近くにずっといてくれてたんだな…。」

上原くんは、私の頭を抱き寄せる。



「…ここ、お店の中だよ…恥かしいよ…。」



「…じゃ、こうするから…。」



そう囁くように言ってから、トレーで隠してそっとキスをした。