最後の一冊に手を伸ばすと、上原くんも手を伸ばす。

本の上で重なる手。
ギュッと心臓が跳ね上がる。



「あ、ごめん。」

上原くんが、サッと手を引く。

私は何でもないという風を装い、無言で本を棚に戻した。


何でもない訳がない。

死ぬかと思った。
心臓が破れて飛び出てしまうんじゃないかと思った。



いつの間にか、本を落とした子供は、いなくなっていた。

何を話していいかもわからず、とりあえず立ち上がる。

上原くんもゆっくり立ち上がり、そのまま無言で行ってしまった。




行っちゃった…

なにもできない自分。


上原くんの残像を辿るように、彼が戻した本の背を、指で触ってみる。


声、優しかったな…。

子供、好きなのかな…。


思い出す上原くんの横顔は、どれも優しかった。