消灯時間を過ぎたロビーは薄暗い。

あれっ?

ほんのり照らされている窓際の椅子に、見慣れた人影。



…上原くんだ…。

背を向けて座っているけれど、あれは絶対に上原くんだ。


私は後ろから、上原くんの肩を叩いた。

上原くんの肩が、ビクリと上下する。
バサッと何かをお腹に隠して、ゆっくり後ろを振り向いた。

「なんだ、結か。びっくりさせんなよ。」


私はごめんと小さく言って、上原くんの向かいに座る。


「また漫画?」


「そうだよ、悪いか?」

上原くんは、お腹に隠した漫画を取り出して、パラパラとページを開く。


「ここで、何してんの?」

「部屋がうるせーから、ここで漫画読んでんだよ。お前こそ、なんでこんなとこにいるんだよ。」


「あ、私は…。」


上原くんが綾香と付き合うって知って、それが辛くて部屋を出てきたなんて、絶対言えない。

気持ちとは裏腹な言葉が、こぼれて落ちた。

「…上原くん、綾香と付き合うんだってね…おめでとう…。」


私の言葉に、ページをめくる手が一瞬止まる。


「おめでとうじゃねーよ、あいつが強引に…いや、なんでもない。お前も矢島と付き合うんだってな。」

漫画を閉じて、上原くんは私を見る。



「え、あ…だから…。」

上原くんの目が、私をチクチク刺していく。

「矢島、ずっと喜んでたぜ。あいつ、部屋でお前と付き合う付き合うって、うるせーから…。」


「…。」



私は何も言えなかった。

私が好きなのは、上原くんなのに…。

なんとなく気まずくて、何を話していいかわかんない。


私は、窓から見える月をぼんやり見ていた。