「ドアが閉まります。ご注意ください」



行ってしまう…。
もう会えなくなる…。



胸がギュッと掴まれるよう。


私は、上原くんに向かって叫んだ。

「私も上原くんが好き、大好きだから!」


もう、涙で上原くんの顔が見えない。



ゆっくりとドアが閉まる。



上原くんが、ドアに手をつけた。

私もドアに駆け寄り、上原くんの手に自分の手を重ねる。



上原くんの潤んだ瞳。

上原くんの唇。


大好きなのに、もう会えない…。

大好きなのに、もう触れることもできない。




キス…したいと思った。

あのときの矢島くんの気持ちが、今、分かった。



私は、ガラスに唇を寄せた。

上原くんも、同じ速さで唇を寄せる。


同じ気持ちだった。

ほんの一瞬だけの、ガラス越しのキス。




電車はゆっくりと動き出す。

私たちの手も、ゆっくりと離れていった。


上原くんを乗せた電車は、降るように咲く桜の中を走っていった。