歯を食いしばる。
…!
唇の前にあった気配は遠ざかり、そっとおでこにキスされた。
私は、目を開けた。
自然と涙がこぼれ落ちた。
「やっぱ、できねーや。」
矢島くんは、私をもう一度抱きしめる。
「好きだった。ありがとう。頑張れよ。さようなら…結ちゃん!」
矢島くんはそれだけ言って手を離し、走っていってしまった。
「矢島くん、待って!」
私は、大声で叫んだ。
うそ、うそでしょ?
これでさよならなんて!
まだ、何のお礼もしてない。
自分だけ言いたいこと言って、いなくなるなんて、ずるいよ…。
住所は?
学校は?
ねえ、何にも教えてもらっていないよ?
私は、矢島くんの後を必死で追った。
駅に着いた時にはもう、電車は東京に向けて出発した後だった。
私はその場に座り込んで、周りも気にせず大声で泣いた。
矢島くんと別れた日。
春なのに肌寒く、風の強い日だった。