なんで…
なんで私なんだろう…

胸がいっぱいになって、涙がこぼれそうになる。


「じゃ、またな。」


「…なんで…?」


「ん?」

「なんで矢島くんは、私なの…?」


「なんでかなんて、わかんないよ。理由なんてない。気づけば目で追ってる。上原さんのことばかり考えてる。」

「私なんて…いいところなんか、一つもないのに…。」


「俺から見たら、いいところしか見つからない。」


私はもう何も言えなかった。


「じゃ、行くね。」


「うん…。」


矢島くんは、何度も振り向きながら帰っていった。





私は、矢島くんが見えなくなってから、ドアを開けて中に入った。

電気もつけずに、ヘナヘナとその場にしゃがみ込む。


小さな紙袋に詰まった、大きな気持ち。
矢島くんの気持ちが苦しかった。

嫌いになんかなれない…。
でも、好きになることもできない…。

どうにもならない。




外は雨が降り出した。


バラバラと叩きつける雨の音が、まるで槍のように私の心を突き刺していく。

体も心も、ちぎれるほど痛かった。