「一人で本を読みたいんだ」
と僕は言った。
そうですか、あっさりつぶやいて、彼女はすぐに立ち上がった。
体重を感じさせない軽やかな動き。
羽毛が肩にふと舞い落ち、ひらりと離れてゆくほどのささやかなできごと。
けれども数日後、彼女はまた声をかけてきた。
「『カニバリズムの系譜』ですね」
ひんやりと澄んだ、どこか機械音を思わせる声。
顔をあげると、視線が合った。
含みのない、驚くほど透きとおった一対の瞳がこちらを見つめている。
僕はだまって視線をはずし、読書にもどった。
彼女はつねに、僕が読んでいる本のタイトルを正確に言い当てた。
本を取るときに注意してあたりを見回してみたが、誰かに見られている様子はなかった。
恐るべき読書量と記憶力の持ち主、ということなのか。
正常の範疇から外れていることは確かなようが、僕と近しい種類の人間ではない。
接触は迷惑でしかなかった。
と僕は言った。
そうですか、あっさりつぶやいて、彼女はすぐに立ち上がった。
体重を感じさせない軽やかな動き。
羽毛が肩にふと舞い落ち、ひらりと離れてゆくほどのささやかなできごと。
けれども数日後、彼女はまた声をかけてきた。
「『カニバリズムの系譜』ですね」
ひんやりと澄んだ、どこか機械音を思わせる声。
顔をあげると、視線が合った。
含みのない、驚くほど透きとおった一対の瞳がこちらを見つめている。
僕はだまって視線をはずし、読書にもどった。
彼女はつねに、僕が読んでいる本のタイトルを正確に言い当てた。
本を取るときに注意してあたりを見回してみたが、誰かに見られている様子はなかった。
恐るべき読書量と記憶力の持ち主、ということなのか。
正常の範疇から外れていることは確かなようが、僕と近しい種類の人間ではない。
接触は迷惑でしかなかった。



![he said , she said[完結編]](https://www.no-ichigo.jp/img/book-cover/1737557-thumb.jpg?t=20250401005900)