病室へと移動した泉は、まだ眠っていた。


両親は妊娠していたことに動揺を隠せないようだった。
時折、母親が俺を睨むように見ていたから。



ベッドで眠る泉は、今朝と何も変わらないように見える。


決定的に違うのは、泉はもう妊娠していないこと。

見た目からは何もわからないけれど。




「……泉、無事でよかったけど…手放しで喜べないね」


和がそう呟いた。

それは皆も思ったのか、誰も何も言わなかった。


泉が無事だったのだから、笑顔になるはずなのに。

この病室は、酷く空気が重かった。



俺は泉がいてくれたら。

そう、思ってたけど。



俺と泉の子供なら、話は別だろ……?



どうして、どうして…。


もっと早く知ってたら。





「………泉」


母親や、父親が泉の横に座っている。
その後ろから俺は愛しい人の名前を呼ぶ。




触れたいけど、触れられない。


さっき、触ろうとしたら母親に触るなと叫ばれたからだ。





…ごめんな、ごめん。


俺は泉を守れなかった。



皆が泉に夢中になってる中。
俺はそっと病室を後にした。