「伊織っ」


靴を脱いで、伊織がいる部屋まで向かう。

伊織は頭だけ、こっちに向けると私を見て口角をゆっくりと上げた。


「お帰り」


「…っ…」


お帰りって、何それ。
なんか、同棲してるみたいじゃん。

胸にずぎゅんときたよ。


「どうしたの、こっちおいでよ」


立ちつくす私を伊織が呼ぶ。
私はそろりと伊織の隣へ腰をおろした。


座った瞬間、伊織は私の肩を抱き寄せる。


「会いたかった」


それは。
私の台詞だよ。


「泉に会えないと、会えたことが幻だったんじゃないかって思ってしまう」


伊織は優しく、何度も私の髪の毛を撫でるとそう言う。


「…だから、泉が来てくれたことが本当に嬉しい」


きゅうきゅうと、胸が締め付けられる。
何度も何度も自問自答したに違いない。

あれは、夢だったのか。
あれは、現実だったのか。


でも。
でもね、伊織。


「私は幻じゃないよ」


真っ直ぐに伊織の瞳を見て言う。

「抱きしめられるでしょ?触れられるでしょ?」


「……うん」