慌てて職場に向かう伊織を見送った私は、暫くその場で呆けていた。



手の平にある、合鍵をただ見つめて。




「………夢、じゃないよね…?」



誰も聞いてないのはわかってるが、言わずにはいられなかった。


再会した翌日に、伊織の部屋の合鍵を貰えるだなんて誰が思うのだろうか。



……玉子サンド好きだなんて伊織、可愛いな。


何も知らない私は呑気にそんなことを思った。



伊織の過去。


知りたい、けど。




伊織は本当に言いたいのだろうか。

聖の過去を聞いて、私は何度も涙した。




父親が、母親を殺してしまった過去だなんて。



忌々しい以外のなにものでもない。




……ただ、もし。



伊織が私を信頼して、話をしたいと言う理由ならば。



ただ、受け入れるだけだ。




もう、二度と伊織を拒まない。


何もかも言うことを聞くとか、そういうことではなくて。




伊織の存在を否定しない。


もう、二度と同じ過ちは犯せないから。