泣いていた泉をあやしていたら、いつの間にか時間は過ぎていて、俺は慌てて家を飛び出した。




「行ってらっしゃい」


一緒に部屋を出て、俺がバイクに乗り込むのを隣で見ていた泉がそう言った。

少し、赤い目をした泉は笑顔を見せていた。



「…行って来る。
仕事終わるの今日六時とかだから、部屋に来て」



言いながらちょいちょいと手招きをすると、泉がぱたぱたと近寄る。



「手、出して」


「…?」


わけがわからない泉は、戸惑いながらも素直に手を出した。




ストン





「………え?」



手の中に落とされたそれを見て、泉は目をパチパチとさせた。



「…俺が帰ってなかったらそれ、使っていーから」





泉は俺が渡した――…合鍵を、強く握り締めると泣きそうな顔をしながらも必死に笑ってみせた。


口を開いたら泣いてしまうのがわかっていた泉は、何度もこくこくと頷く。




「じゃあ、また」


軽く手を上げると、俺はバイクを走らせた。




“じゃあ、また”



この言葉が俺の胸を温かくさせた。